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東京地方裁判所 昭和48年(特わ)2288号 判決

被告人

本籍

東京都港区高輪四丁目一七番地

住居

東京都港区高輪四丁目六番一〇号

職業

会社役員

小林貞

大正五年八月二日生

本籍

東京都港区高輪四丁目一七番地

住居

東京都港区高輪四丁目六番一〇号

職業

会社役員

小林敏子

昭和四年七月九日生

出席検察官

河野博

出席弁護人

浅見敏夫

主文

1  被告人小林貞を懲役六月に、

被告人小林敏子を罰金四〇〇万円に

それぞれ処する。

2  被告人小林敏子において右罰金を完納しえないときは金二万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

3  被告人小林貞に対し、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人小林貞は東京都港区高輪四丁目一〇番二〇号において中華料理店「桃苑」、寿司店「すし貞」およびパチンコ店「ジヤラン」の三店舗を、同区港南四丁目二番一九号において喫茶店「ラダ」をそれぞれ経営していたもの、被告人小林敏子は被告人小林貞の経営する前記「桃苑」「すし貞」「ジヤラン」の三店舗の事業に専従していたものであるが、被告人小林貞の所得税を免れようと企て、共謀のうえ、売上の一部を除外して簿外預金を蓄積する等の方法により所得を秘匿したうえ、

一、昭和四五年分の被告人小林貞の実際の総所得金額は別紙第一記載のとおり一八二四万九五八八円であつたのに、昭和四六年三月一二日東京都港区芝五丁目八番一号所在の所轄芝税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二三一万九、三四五円でこれに対する所得税額は二六万五、四〇〇円である旨の虚為過少の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、同年分の正規の所得税額七七八万九、三〇〇円と右申告額との差額七五二万三、九〇〇円を免れ、

二、昭和四六年分の被公人小林貞の実際の総所得金額は別紙第二記載のとおり二、〇三八万五、四五一円あつたのに、昭和四七年三月一四日前記芝税務署において同税務署長に対しその所得金額が三四七万〇、六四〇円でこれに対する所得税額は四九万五、〇〇〇円である旨虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額八六〇万六、八〇〇円と右申告税額との差額八一一万一、八〇〇円を免れたもの(税額の算定は別紙第三記載のとおり)である。

(証拠の標目)

一、被告人両名の当公判廷における各供述

一、被告人小林貞の検察官に対する供述調書(二通)

一、被告人小林敏子の検察官に対する供述調書(三通)

一、被告人小林貞に対する大蔵事務官の質問てん末書六通

一、被告人小林敏子に対する大蔵事務官の質問てん末書一三通

一、吉田幸子、水野武、小林悟の検察官に対する各供述調書

一、次の者に対する大蔵事務官の各質問てん末書

吉田幸子(二通)、水野武(二通)、小林恒、小林よし、城三枝子、中嶋栄、嶋田勝好、坂川富海夫

一、次の者の各上申書((株)は株式会社の略)

吉田幸子、(株)和光、金沢建設(株)、相沢電気工事(株)、共和時計宝飾(株)、長谷部産業(株)(二通)、小林嗣政、岩藤文彦、小林よし、(株)西陣、(株)オオキデザイン研究所、(株)トリオ製作所、セントラル商事(株)、ウエシマ・コーヒー(株)

一、次の者の回答書((銀)は銀行の略、/は支店を示す)

東京相互(銀)/荏原、三菱(銀)/品川駅前、東京地方貯金局長(二通)、長野地方貯金局長、東京地方簡易保険局業務課長、日本生命保険相互会社東京契約部料金課長、日新火災海上保険(株)、第一火災海上保険相互会社、共栄火災海上保険相互会社、日動火災海上保険(株)東京営業第一部内務部長、東京海上火災保険(株)、東京都港区長、東京都港都税事務所長(二通)、金山食品(有)、丸久蓄産、百友食糧販売所、(株)ヤマキ伊藤海苔店

一、次の者の証明書

住宅金融公庫東京営業所長、東京相互(銀)/辻堂、常盤相互(銀)本店営業部長、大東京信用組合/品川駅東口、三和(銀)/大井町、三井(銀)/五反田

一、大蔵事務官作成の検査てん末書

一、大蔵事務官作成の調査書一四通

一、丸島辰雄作成の「公租公課の納付状況について」と題する書面

一、押収してある次の各証拠物(押収番号はいずれも昭和四九年押第四五六号でかつこ内はその符号)

見積書等一袋(1)、領収書等一袋(2)、病院領収書等一袋(3)、証書貸付計算書等一袋(4)、領収書等一袋(5)、預り証一袋(6)、定期預金メモ一袋(7)、小林貞渡現金メモ一袋(8)、手形貸付計算書等一袋(9)、建物売買契約書等一袋(10)、領収証一袋(11)、請求書等三袋(12)、ドリーム掛金帳一袋(13)、入金伝票一袋(14)、小林貞邸新築工事請負契約書等一袋(15)、領収証等一袋(16)、空封筒一袋(17)、元帳一綴(18)、元帳一綴(19)、給料明細帳一冊(20)、総勘定元帳二綴(21、22)、定期預金明細表一袋(23)、入出金伝票一袋(24)、建築関係請求書等一袋(25)、済普通預金通帳三冊(26)、固定資産台帳一冊(27)、証一袋(28)、領収証等三袋(29)、地代領収証一冊(30)、手帳二冊(31)、青色申告者書類つづり一綴(32)、店舗兼居宅賃貸借契約書一袋(33)、請求書一袋(34)、売上帳一袋(35)、現金出納帳一冊(36)、売上帳三綴(37)、仕切書一綴(38)、振替伝票二綴(39、40)、所得税確定申告書三通(41、42、43)、所得税源泉徴収簿等一袋(44)

(事業所得の帰属について)

前掲関係証拠を総合すれば次の各事実を認めることができる。

1  被告人両名の中華料理店「桃苑」、寿司店「すし貞」、パチンコ店「ジヤラン」および喫茶店「ラダ」の各店舗の営業への関与の状況についてみると、

(イ)、被告人両名は夫婦であるが、本件で起訴されている年度当時も含めかなり長期間にわたつて別居中であり被告人小林貞(以下単に被告人貞という)は吉田幸子に喫茶店「ラダ」の営業をさせて同女と同棲していたものであること、

(ロ)、その間「桃苑」「すし貞」「ジヤラン」の各店舗の経営方針の樹立、事業活動の統括は被告人小林敏子(以下被告人敏子という)が責任をもつてあたつていたもので、被告人貞は時たまその相談にあずかるという程度のものであつたこと、

(ハ)、簿外資産の管理処分も被告人敏子が行なつていたところで、簿外不動産の登記名義も被告人敏子あるいは同被告人の実弟等の名義になつているものがあること、

2  営業の公的側面についてみると、

(イ)、パチンコ店「ジヤラン」の風俗営業等取締法上要求される東京都公安委員会の営業許可、中華料理店「桃苑」、寿司店「すし貞」の食品衛生法上要求される東京都知事の営業許可の名宛人その他営業をするについて要求される各種の届出等はすべて被告人貞となつていること、

(ロ)、右各店舗の所有名義(「桃苑」「すし貞」)、賃借名義(「ジヤラン」)はすべて被告人貞であること、

(ハ)、所得税の確定申告等課税面での申告も被告人貞名義でなされてきたもので、被告人敏子は確定申告書上事業専従者として記載されてきたものであること、

3  本件営業の経緯をみると

(イ)、被告人貞は右各店舗についても営業開始後それが軌道にのるまでは熱心にその経営に専心していたが、事業が順調に進展するようになると、被告人敏子に営業をまかせ、以後は同被告人が営業全般の維持発展につとめてきたものであること、

(ロ)、被告人敏子は経営上重要な事項は被告人貞に相談しその了解を得て決定してきたもので、特に所得税の確定申告にあたつては被告人貞も被告人敏子とともに関与税理士に相談し申告書を作成することにしていたこと、

(ハ)、各店舗の従業員も被告人貞を単に被告人敏子の夫であるというだけでなく、各店舗の経営者として意識していたものであり、被告人敏子自身も被告人貞の妻としてその営業に専従してきたもので各店舗の営業収益が自己に帰属するものとは考えていなかつたこと(自己名義あるいは実弟名義の不動産を取得したのは別個の考慮によるものである)、また長年の関与税理士である水野武も被告人貞が経営者であり被告人敏子が事業専従者であるとの確定申告書を提出するについて疑問を感じたことはないこと、

(ニ)、被告人貞自身も事業主は自分であると考えてきたこと、

以上の各事実を総合すれば、被告人貞は喫茶店「ラダ」のみでなく「桃苑」、「すし貞」、「ジヤラン」の各店舗の事業についてもその経営者であり、これら各店舗の事業所得はすべて被告人貞に帰属するものと認めるのが相当である。

(法令の適用)

一、該当罰条、刑種の選択

所得税法二三八条、刑法六〇条(被告人小林貞につき懲役刑を選択、被告人小林敏子につき罰金刑を選択)

一、併合加重

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(被告人小林貞の懲役刑につき、重い判示二の罪の刑に法定の加重)、四八条二項(被告人小林敏子の罰金刑につき)

一、労役場留置

刑法一八条(被告人小林敏子につき)

一、執行猶予

刑法二五条一項(被告人小林貞の懲役刑につき)

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 池田真一)

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